俳句カレンダー鑑賞  平成29年6月

俳句カレンダー鑑賞 6月
杜若水を余白としてゐたり 村上喜代子

 掲句は、第1句集〈美しき生ひ立ちを子に雪降れ降れ〉を代表句とする 『雪降れ降れ』で、瑞々しく俳壇にデビューした作者の第4句集『間紙』に所収されている。この間約20年の歳月が流れた。
 恩師である大野林火の抒情を受け継ぎ、現在主宰誌「いには」にて後進の指導に当たっている。
 作者のおおらかで詩情溢れる作風は、心のゆとりから生まれるのだ。杜若と水の関係性を一度自分の心の中に広がる世界に落とし込み、そのエッセンスを抽出して「水を余白としてゐたり」という表現を得たのだろう。
 杜若あっての水面、水があってこそ際立つ杜若。対象に迫り目に見えない何かを摑み取ったとき、句の詠み手と読み手を繫ぐ「余白」が立ち現れ、写生を超えた抒情、豊かな詩の世界が広がってゆく。
(坂本 茉莉)
杜若水を余白としてゐたり

村上喜代子

 社団法人俳人協会 俳句文学館554号より