俳句カレンダー鑑賞  平成29年1月

俳句カレンダー鑑賞 1月
つくづくと寶はよき字宝舟 後藤比奈夫
つくづくと寶はよき字宝舟

後藤比奈夫
 正月になるとよくこの句を口遊む。二拍子で、時に四拍子で。もう50年も...。昭和40年作。句集『金泥』所収。
 「寶」は、 宀 ・王・缶・貝から成り立つ。どの部分も宝や貴いものであり、それらが器に入れられ、屋根の下に納められているという形。
 この目の前の宝舟。七福神の乗っているものなのか、金銀財宝の溢れているものなのか。張られた帆には、財宝を象るような寶の字が満々と風をはらんでいる。
 「つくづくと」に続くのは、「見る」よりも「思う」であろう。
 これを枕の下に敷くより先に、この文字の豊かさに夢見心地になって、「寶はよき字」という作者。この端的さが、宝舟の見事な写生となっている。
 初出では二つのタカラは旧字で出ている。
 いつの頃からか、下五は「宝」と書き分けられるようになる。そのことが却って中七の「寶」の姿にも意味にも重みを加え、正月のめでたさを溢れさすことになった。(金田志津枝)
 社団法人俳人協会 俳句文学館549号より