俳句カレンダー鑑賞  平成29年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
杳として荒海のみゆ吹流し 鈴木節子

 今は亡き鷹夫主宰とご夫婦で、日本海方面へ旅されたとき詠まれた句。
  日本海は風のない日でも白波が立ち、広く深く色も濃く、そして冥い。
  男児の成長を願う吹流しの鮮やかな色が、潮風に靡いている。句柄の大きな景である。
  男児の成長の前途を阻む幾多の困難に出合い、これから何が起こるかは 杳として測りしれない。
  この「杳として」の措辞は、距離的なものよりも時空を超えたはるかなものを感じさせる。見えている荒海には、緊張感と挑戦が漂う。「強く生きてあれ」と呼びかける作者の温かい眼差しと共に、切なる願望と祈りが込められている。
  吹流しが生命の讃歌であるならば、荒海は杳として暗い異界だ。
  両者が響きあって、生死を思わせる力強い句になっている。 (梶本きくよ)
杳として荒海のみゆ吹流し

鈴木節子

 社団法人俳人協会 俳句文学館553号より