俳句カレンダー鑑賞  令和2年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
傍らに千年の樹々滝落つる 伊藤敬子

 「笹」の一泊吟行で松川渓谷を訪れた時の作。山道を10分程下りていくと滝は轟音とともに忽と姿を顕す。師と肩を並べて見上げた感動は今でも忘れられない。
 千年という月日を鬱蒼とした樹々の梢は天界へ、根は地下の国へ伸びる。可視出来る葉幹は我等に現在の生の力強さを思わせた。その真中を落ちてくる白い滝。私には姿勢良く胸を張った師の姿そのものに思えた。俳句道一筋40年の姿である。
 力強く言い切る掲句にファジーな言葉は一語もない。それなのに、今この句に向き合うとき、幻想ともつかぬ不可思議な世界を思い浮かべ感じてしまう。それは千年という言葉の重みの所為であろうか。それとも闘病中の師が重態と聞く所為であろうか。
 滝壺で水は水炎となり、あたかも立鏡の様に我等を映し、崩れ、一川となって永劫へ流れていった。(柴田 鏡子)
傍らに千年の樹々滝落つる

伊藤敬子

 社団法人俳人協会 俳句文学館590号より