俳句カレンダー鑑賞  平成2年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
春寒や子規全集の一書欠く 栗田やすし

 第一句集『伊吹嶺』(風発行所 昭46・4・15)所収。初出は「風」昭和47年7月。同時発表作に〈大試験汽車雪嶺の裾走る〉がある。やすし34歳の作。晩学の志を立て、子規との関わりにおいて碧梧桐俳論の展開と、その源流を探っていた時期にあたる。したがって、中七の「子規全集」は、学究のために必要な資料であったのだろう。
 「春寒」「全集」「一書」と漢語を畳みかける緊密な声調によって緊張感を維持する語法は、早春の寒気を感じさせるが、「欠く」の一語によって、もどかしさが表出された。本来全巻揃っていなければならない全集が、たった一冊ではあるが、不揃いであるという落差は、冴え返る春の一日と響き合う。
 偶然性と季感が密接に結びつくことで、内面の陰翳が表現されているのである。(荒川 英之)
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春寒や子規全集の一書欠く

栗田やすし

 社団法人俳人協会 俳句文学館586号より