俳句カレンダー鑑賞  平成2年1月

俳句カレンダー鑑賞 1月
あかねさす近江の国の飾臼 有馬朗人
あかねさす近江の国の飾臼

有馬朗人
 掲句は、第27回俳人協会賞を受賞した作者の第3句集『天為』の巻頭に置かれており、昭和55年、近江の長浜での作である。
 上五を「あかねさす」という枕詞によって始めることにより、万葉集の中の有名な「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」という額田王の歌を、そして大海人皇子と額田王が歌を交わした飛鳥時代の近江の地を想起させ、その近江の国の美しい飾臼へと焦点が絞られてゆく。
 新しい筵の上の洗い清めた臼の上に注連縄が張られ、鏡餅の飾られた鏡臼に朝の光が射し、静かに新しい年の到来を待っている。あかね色の朝の光、真っ白な鏡餅などの色彩と共にいつまでも心に残る一句である。
 句集『天為』には海外詠が数多く収められており、作句した地名が書き添えられているが、掲句には「日本」とある。長い海外生活を終えて戻った作者の目には、古来よりの日本の伝統美はどれほど美しく映ったことであろう。(明隅 礼子)
 社団法人俳人協会 俳句文学館585号より