俳句カレンダー鑑賞  令和2年3月

俳句カレンダー鑑賞 3月
神が来し海上の道岬椿 本井英

 「岬椿」が季題で春。岬に群生する椿のほとりから大海原を見晴らしていると、この岬に祀られている神が遥か昔に渡って来たという海上の道が見えるようだ...という俳句。岬のお宮は木立の中にあって、参道を振り返るとその先に明るい海が見えるのでしょう。
 穏やかな海面には、沖合へ向かって道のような筋があらわれているのかも知れません。そして、海の反射は群生する椿の花や葉を照らしています。その輝かしさに囲まれているうち、神話の世界が目の前に立ち上がってきたのです。
 一句は、中七の切れと下五の季題とが調べを引き締めていて、神を詠むにふさわしい格調を備えています。
 「神」「海上」の頭韻、「き」の音の重なりも心地良く感じられます。
 句集『夏潮』所収。平成7年作。安房国一宮、洲崎神社での詠。(前北かおる)
神が来し海上の道岬椿

本井英

 社団法人俳人協会 俳句文学館587号より