俳句カレンダー鑑賞  平成22年11月

俳句カレンダー鑑賞 11月
痩空也見し目をぬくめ冬紅葉 加古宗也

 平成8年、京都・六波羅蜜寺での作。句集『花の雨』所収。六波羅蜜寺で圧倒されるのは、この空也上人像。醍醐天皇の皇子といわれ、万民救済のため、目ら十一面観音を刻み、念仏を唱えながら諸国を巡り歩いた。
 貴賤を問わず布教をしたことで、阿弥陀聖とも市聖とも称された。
 肋骨もあらわに痩せこけた胸、細い脚、鹿の角をつけた杖を持ち、眼光鋭く空也が立っている。そして口中から、阿弥陀仏を六体吐き出しているのである。
 この特異な姿は、霊気を発しているのであろう。初めて見たとき、私はしばらく動けなかった。それ以来この空也像には魅了されている。
 掲句の魅力は、この姿を先ず「痩空也」と強く言い出したところにある。
 空也像に圧倒されながらも、空也の世界と魂を交信するかのように対峙し続けた。そしてふっと救いを求めるように堂を出た作者が目にしたものが「冬紅葉」。
 憑かれたような作者を癒してくれたのは、冷気の中のひときわ鮮やかな「冬紅葉」だった。(田口 風子)
痩空也見し目をぬくめ冬紅葉

加古 宗也

 社団法人俳人協会 俳句文学館475号より