俳句カレンダー鑑賞  平成22年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
波除けに夕日とどまる祭かな 安立公彦

平成7年、安房鴨川での作。鴨川は「春燈」の先達鈴木真砂女さんの生地であり、太平洋の陽光あふれる温暖な小漁港である。
 夏の波がひねもす波除けを洗っては引き、引いては覆いかぶさる。けれどもその波除けに差す夕日はうごかない。波の「動」と夕日の「静」が対照をなす。折から祭笛や太鼓の音が海のほとりへ間遠に聞こえてくる。波と祭の音の重層性が、さびしらを醸し出す。
 安立公彦は平成20年に春燈主宰に就任。初代の久保田万太郎から安住敦、成瀬櫻桃子、鈴木榮子へと承け継いできた春燈の抒情俳句をさらに進めるべく門葉を導いている。
 「俳句のこころは、対象への思いやりにある。その〈思いやり〉は、結果的に一句に含まれるものであり、意識して塗り込めるものではない」と、俳句における抒情の要諦を説いている。
 掲句は、この謂のように抑制の効いた表現の中に、鄙のぬくもりを宿す抒情句である。(鈴木 直充)
波除けに夕日とどまる祭かな

安立 公彦

 社団法人俳人協会 俳句文学館469号より