俳句カレンダー鑑賞  平成22年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
ここへ来て佇てば誰しも秋の人 後藤比奈夫
ここへ来て佇てば誰しも秋の人  後藤比奈夫
 平成9年、山口県防府市旧毛利邸での作(『沙羅紅葉』所収)。旧邸は今、「毛利博物館」として公開されている。多々良山のふもとから坂道を登り小高い所に開ける邸跡は総面積5万3000平方?という広さである。
 和風の博物館の前を過ぎ、周防灘へつながる展望の開ける前庭に出る。広い芝生に松の木などが点在する。その日、60名近い人数で訪れたのだが、その庭に散らばれば誰がどこにいるのか分からない。みんなゆっくり歩き、立ち止まり、木陰に寄って時を過ごす。
 そこは庭園の突端、足元は断崖。遮るもののない展望。快い日差。そこが道筋のように渡る風。身を過る秋声。そこを「ここ」と決めて佇まれる比奈夫。この句、「佇てば」という仮定形で描かれている。従って今佇んでいるのは作者ひとり。秋の人と観じているのも自身であろう。
 「ここ」といい「秋の人」というだけでしたたかな風景を思わせ、深い人の心を画き出している。そこには門下を思う慈愛の心があり、この地への存問があるのである。(金田志津枝)
 社団法人俳人協会 俳句文学館472号より