俳句カレンダー鑑賞  平成22年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
そらまめをむくやひとつぶのみ大き 松尾隆信

第六句集『松の花』所収。「そらまめをむく」という日常的な光景は、「や」のやわらかな切れによって瞬時に転換され、「一粒のみ大き」にズームアップされてくる。堅く大きな莢をひらいたとたんに目にとび込んできた、大小の実のいのちのひしめきへの無垢な驚きと発見がある。
 そこは無邪気な童心のひろがる世界であり、同時に「そらまめ」一家の長としての自覚の高まりをも感じさせる、深く穏和な空間でもある。一見平凡な人の営みへのこの愛憐の視線こそ松尾隆信俳句の本質であり、『雪溪』以後の全句集を貫く一筋の気息でもある。
 これは少年期の療養生活で、「同世代の若者がひっそりと死んでゆく日々」(「俳句」(平成21年2月号)を見据え、生命の重さと脆さの二重性を認識せざるを得なかったところに生じた死生観によって支えられた世界である。
 「俳句とは、〈眼前即興〉〈眼前微笑〉〈眼前挨拶〉の詩である」(あとがき)の理念にもとづく、「即興」「微笑」の一句である。(門脇浩次郎)
そらまめをむくやひとつぶのみ大き

松尾 隆信

 社団法人俳人協会 俳句文学館469号より