俳句カレンダー鑑賞  平成22年10月

俳句カレンダー鑑賞 10月
紅葉谷といふところより人来る 倉田紘文

 昭和34年11月、倉田紘文は、父素直にすすめられ、軽い気持で高野素十の第1回「芹」九州俳句大会(耶馬溪開催)に参加した。19歳の学生の「生まれて初めての句会」だった。
 山国川に沿って、耶馬溪から深耶馬渓まで見事な紅葉の景勝地が続き、紅葉谷の地もその一景を成す。
「折から燃えるような紅葉明かりの中に現れて歩き来た人が、絵物語の中の人物でも見るような雅趣ある姿として映った」と紘文の自解。平明で、やさしい言葉の表現。写生の奥にある抒情。読者の力量によって、紅葉谷の景は大きく広がるだろう。
 それは、素十の初入選句となり、『山の歳時記』(小学館)に掲載された。
 遠入たつみは「この日の出会いが、後に『紘文に俳誌を出させたらどうか』と師素十が言い、今日に至っている事を思うと、仏語の機縁というものをしみじみ思う」と述懐する。
 自然に添いながら、余分な言辞のない作風は原点のこの一句にあった。(第一句集『慈父悲母』所収)。(山下かず子)
紅葉谷といふところより人来る

倉田 紘文

 社団法人俳人協会 俳句文学館474号より