俳句カレンダー鑑賞  平成21年10月

俳句カレンダー鑑賞 10月
人間の頭集まる牛祭 辻田克巳

 牛祭は京都太秦(うずまさ)の広隆寺に行われる悪魔退散、五穀豊穣祈願の祭で、京の三大奇祭の一つ。

 牛祭は伝承によると1012年、浄土を欣求する晩年の源信(恵心僧都)が、霊夢によりマダラ神を守護神として修した法会に始まる。明治維新後中絶したが、富岡鉄斎の尽力により再興。10月12日夜にとり行われる(現在休止中)。

 祭は白い奇妙な仮面をつけたマダラ神が牛に跨って登場。松明を持った赤鬼青鬼の四天王以下が従う。

 マダラ神が奇妙な独特の節付けで長い祭文を朗読。読み終わるや薬師堂内に突入して祭は終了するという。

 掲句は、牛祭を詠んだ他の多くの句と似ていない。「にんげん」という平仮名表記が、剥き出しになった人間存在そのもののイメージを喚起しつつ、「にんげんの頭」と牛祭の「牛」とが即物的イメージとして投げ出され、関係付けられている。読み手は奇祭の外面的印象や雰囲気にではなく、祭が内包する奇妙さそのものに直面させられるかのようだ。昭和44年作。句集『明眸』(昭和48年刊)所収。(富吉 浩)
人間の頭集まる牛祭

辻田克巳

 社団法人俳人協会 俳句文学館462号より