俳句カレンダー鑑賞  平成21年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
秋の水ひかりの底を流れをり 井越芳子
秋の水ひかりの底を流れをり  井越芳子
 『鳥の重さ』には、掲句をはじめ、たくさんの「ひかり」が登場する。
 天地間のすべてのもの、山も、川も、花も、水も、「ひかり」があるからこそ美しい。作者の眼差しは、この「ひかり」を透き通った心で捉えている。対象物の表面を捉えるだけではなく、その裏側にまで迫っていく。そしてその眼差しの行き着いた先で、作者はひたむきに自分の言葉を探し求める。「ひかりの底を」という表現を得たことは、まさにそのことの証ではないだろうか。
 ここではただ「秋の水」しか詠まれていないが、「ひかりの底を」という措辞によって、この句は大きくふくらみ、読む者に不思議な余韻を残すことになった。
 また、墨量をおさえた書き振りには、乾いた秋の空気への思いが感じられる。
 澄み切った秋の空気は水の底にまで到達していて、読む者はとびきり爽やかな「秋」の中へと誘われる。(ローバック恵子)
 社団法人俳人協会 俳句文学館461号より