俳句カレンダー鑑賞 平成21年9月
- 俳句カレンダー鑑賞 9月
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露のせてゐて芋の葉の濡れてゐず 白濱一羊 俳人協会新人賞を受賞した句集『喝采』所収。
里芋の葉の表面には水をはじく性質があるため、白露は丸く固まったままころころと葉の表面を移動していく。つまり里芋の葉は、露を乗せても、露に濡れることがないのである。
作者は芋の葉を凝視し、そのことを発見した。眼前の事象を当たり前のことと思えば何も起こらない。そこに不思議さを覚えた時に詩が生まれるのだ。
そしてこの句が単なるトリビアリズムを超え佳句となった所以は、作者の澄んだ眼差しを感じるからだろう。師の小原啄葉はそれを「童眼」と評したが、至言である。芭蕉の「俳諧は三尺の童にさせよ」に相通ずるものがある。
そしてこの句は七五五の破調だが、「の」「て」の繰返しでリズムが整えられている。凝視した時間の流れを象徴するかのようだ。
作者は含羞の人。この句には、その真摯な人柄や句作態度がよく表れている。(深谷義紀)社団法人俳人協会 俳句文学館461号より