俳句カレンダー鑑賞 平成30年9月
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葛の花むかしの恋は山河越え
鷹羽狩行あまりにも人口に膾炙している句であり、どう鑑賞してもなぞりの域を出ない気がするが、掲句を初めて目にしたときの衝撃をありのままに書いてみたい。初学ではあったが、それでも恋などの文字を十七音に収めることは不可能と思っていた頃である。
むかしの恋、そしてそれは山河を越えるとのスケールの大きさにまずは瞠目し、これはあくまでも象徴かとも思った。が、「葛の花」でその解釈は誤りであることに気づいた。『万葉集』で山上憶良は秋の七草として葛花を取り上げているように「葛の花」には歴史的背景が大きいのである。ここに一句の核がある。現代のように携帯端末に依存しているような恋などとは比べ物になるはずもないのである。そして俳句は、季語が命、季語で勝負するものと密かに思ったものだった。
その季節になると必ず掲句を口ずさむ。そこには人として忘れてはならない根源的なものが描かれているからである。(佐藤 博美)社団法人俳人協会 俳句文学館569号より