俳句カレンダー鑑賞  平成30年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
百万本片栗みんな反りて咲く 阿部月山子

 近頃は片栗の里とか片栗園と称して数十万株や数百万株の片栗を見ることのできる場所がある。百万本の片栗がどれ程の規模のものか、作者は承知しているのだ。もっとも当人は山形県鶴岡市に在住ゆえ、恐らくこの句は月山山中か朝日連峰奥地の沢沿いで出合った天然の片栗の大群落に感動しての作であろう。
 句は平明な写生で、一読して眼前におびただしい片栗の花の咲く景が浮かぶ。花弁が反り返るのは、林中に光の射し入る晴れた日中のこと。極端に反曲した紅紫の片栗の花は印象的である。
 句の眼目は「みんな」にある。「すべて」やら「どれも」でなくややくだけたこの表現が、百万本との並外れた数を親しみのあるものにした。  明快な具象性のもつ力強さが発揮された、楽しい佳句である。
(柏原 眠雨)
百万本片栗みんな反りて咲く

阿部月山子

 社団法人俳人協会 俳句文学館562号より