俳句カレンダー鑑賞  平成29年11月

俳句カレンダー鑑賞 11月
見上ぐれば我へ我へと落葉降る 比田誠子

 むろん、実際の落葉は四周へ遍く散り敷くのでしょう。しかし作者はあえて「我へ我へ」と詠みました。この畳み掛ける措辞が、切実さをもって響いてきます。掛替えのないわが身が強く意識されています。事実の平板な描写ではなく、五感を研ぎ澄まし、自らの「生きる証」となる作品を残そうと、作者の命が希求しています。
 初五の見上げるという意志的な行為に希求の強さが窺われます。真摯で痛切なものが掲句から迫ってくるのは、読者も同じ思いで句作を志すゆえでしょうか。  俳句を通じてまだ見ぬ自分に出会うことを説く大串章に師事し、「百鳥」を研鑽の場として生まれた一句。十年ほど前の初出では座五は「木の葉降る」でした。葉が我をめがけて落ちるイメージの強さは推敲後の「落葉降る」が勝ります。
(望月  周)
見上ぐれば我へ我へと落葉降る

比田誠子

 社団法人俳人協会 俳句文学館559号より