俳句カレンダー鑑賞 平成29年4月
- 俳句カレンダー鑑賞 4月
-
猫の子のどう呼ばれても答へけり
有馬朗人少年時代を自然に親しんで過ごした有馬朗人俳句には、よく蝸牛、蟷螂などが登場する。なかでも寡黙な亀、いたいけな子猫は常連のようだ。
句には作者と物言わぬ小動物との、密かな交歓が描かれている。
子猫は自分にどんな名前をつけられているか、など知るはずもない。ただ、人間が親しく語りかけるから返事をするのである。そんな子猫を作者はいろいろな名前で呼んでみては、愛らしい反応に目を細めている。
第1句集『母国』(昭和47年刊)には、〈涅槃図に不参の猫よ身を売るな〉という句もある。作者が一貫して猫を贔屓するのは、猫のもつ自由さ故である。同じように人間に飼われていても、犬は真面目で、忠実すぎて可哀想になってしまう。それと較べて猫は人の言うことをきかない気ままさがあり、反応を予測できないところが面白いのだという。
作者の視線には、人間の傍らで懸命に生きる、小さな命に対する慈愛の情があふれている。 第5句集『立志』(平成10年刊)所収。
(坂本 宮尾)社団法人俳人協会 俳句文学館552号より