俳句カレンダー鑑賞 令和8年3月
- 俳句カレンダー鑑賞 3月
-

近づくと、ハッとするような真紅の、一輪の椿が今正にはらりと水に落ちるところであった。よく見ようとする間もなく堰を落ちて水に消えた。椿を思うとき、その日見た自然の摂理という美しさを思い出す。
椿は古来より日本にあったようで、『万葉集』に数首が残されている。俳人にも愛好家は多い。殊に落椿という、滅びゆくことに猶予を持たないものを季語に遺すところが、俳人らしくもある。
掲句は正にその滅びを夢と絡めている。落椿の美しさは夢と現のあわいにあると見立てた。
2021年の作。3月とは言え雨催いの寒い日だったという。
「栞俳句会」を立ち上げて満4年、忙しい日々にようやく得た時間の暇の、自然との邂逅はなんと麗しいことであったろう。
(木内 憲子)水の上の夢のつづきの落椿
松岡隆子社団法人俳人協会 俳句文学館658号より
