俳句カレンダー鑑賞 令和8年3月
- 俳句カレンダー鑑賞 3月
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真っ赤な顔をして小さな拳を握りしめたあの子が鳴きながらこの家にやって来たのを見た瞬間からわたしは「この子を何があっても守らなければ」と決心したのだった。
それから7年余り、あの子が学校と言う所へ行っている時以外片時も離れずに暮してきた。
夏の川遊び、蟬とり、秋の落葉滑り、何より楽しいのは初雪が降り出すと大きな口を開けてぱくりぱくりと雪を食べることだ。
が、今年はもうあんなに元気に走り回ることは出来なくなってしまった。
暖かいベランダの毛布に蹲り、今日はいつもより帰りが遅いようだがと案じながらうつらうつらとしているといきなり「ほらっ」とあの子の声がして何か首に掛けられた。ああ今年もあのげんげの匂い。たちまちわたし達はげんげ畑を昨年のようにころげ回っているのだった。
(石川 暘子)げんげ首飾り日向の老犬に
今井聖社団法人俳人協会 俳句文学館658号より
