俳句カレンダー鑑賞  令和8年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
沈金の月が梢に二月かな 角谷昌子

 二月は月の初めに立春を迎えるが、しばらくは厳しい寒さが続く。やがて梅が咲き始め、鳥や猫は恋の季節となる。しんとした静けさのなかで春への期待が少しずつ膨らんでゆく。その二月という静かな空白を美しく描写したのが掲句である。
 〈沈金〉とは、漆器の表面に彫った文様の溝に漆を摺り込み、金粉や金箔を付着させる技法のこと。金が沈んだように見えるのが特徴だ。漆黒の闇のなかに浮かぶ月は、沈金のような輝きを放っていたのだろう。その月が木の梢に差し掛かり、漆器の図柄を思い起こしたのだ。〈沈金の月〉は、漆器の月ではなく、現実の月だと解釈したい。〈梢に〉差し掛かったことで漆器の世界に迷いこんだように錯覚したのだ。そういう幽玄な空間がひらくのも、二月という静かな期間ゆえであろう。
(篠崎 央子)
沈金の月が梢に二月かな

角谷昌子

 社団法人俳人協会 俳句文学館657号より