俳句カレンダー鑑賞  平成27年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
木の国の初音を聞きにきしごとし 藤本美和子

 掲句をさらりと読むと単に旅行で木の国=和歌山を訪れて初音を聴いたとも受け取れるが、作者の故郷が和歌山であることを知ると、いっそう深みを増して一句が立ち上がってくる。
 故郷に何か所用があって里帰りしたのだろう。その所用が目的であるはずなのに、その年初めての鶯の声を思いがけなく耳にした。和歌山は至る所に山河が広がっているから、わざわざ初音を聴きに行かなくとも日常の中でその声に出会うことは珍しくない。
 所用が主だったはずが初音を聴くために里帰りしたような、思わぬ「目的の逆転」が掲句の眼目であり、諧謔となっている。同時に故郷の初音に聴き惚れることで、産土を讃えている。
 紀の国ではなく木の国と表記したことで、初音がより一句の中で凜と木霊している。(堀本 裕樹)
木の国の初音を聞きにきしごとし

藤本美和子

 社団法人俳人協会 俳句文学館526号より