俳句カレンダー鑑賞  平成26年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
夕ひぐらし鳴き止む映画終るごと 棚山波朗

 第4句集『宝達』には〈夕かなかな鳴き止む映画終るごと〉として収められている。字余り、句またがり、比況、倒置を効果的に用いた異色の一句である。
 語順としては〈映画終るごと夕ひぐらし鳴き止む〉であり、一句一章の句である。「夕ひぐらし鳴き止む」を印象強く打ち出すために、倒置法を使用している。
 ひぐらしの鳴き声は、哀調を帯びている。夕暮れの森の中で一斉に鳴き出すと、まるで別世界に誘い込まれたような気持ちになる。それが薄暮、潮が引くように鳴き止むと寂しさが襲ってくる。句中の映画は、終盤にクライマックスのある哀感漂う洋画が想像される。
 波朗は、俳句の師であった細見綾子を平成9年に、13年には沢木欣一を亡くしている。
 15年作のこの句には、そのようなことも反映されているように考えるのである。 (沖山吉和)
夕ひぐらし鳴き止む映画終るごと

棚山波朗

 公益社団法人俳人協会 俳句文学館520号より