俳句カレンダー鑑賞  平成26年2月

俳句カレンダー鑑賞 2月
桑ときて夕星匂ふばかりなり 古賀まり子

 風雪を凌ぐために縄で括られていた桑の枝は、春を迎えると解き放たれる。桑畑の滅った今、作例の少なくなった「桑解く」だが、風土に根差した魅力ある季語の一つ。
 掲句は昭和51年の作。長い闘病生活を経て健康を取り戻した作者は、この年の1月に亡くなった相馬遷子の墓参に佐久を訪れた。その折の旅吟である。
 春の和らいだ大気のなか縄を解かれ、伸び伸びと枝を広げた桑。その上に折しも潤んだような夕星が輝きを増してゆく。
 「にほふばかりなり」と瑞々しい感性で、春の訪れの喜びが詠いあげられている。一句にあふれる豊かな抒情と、凛とした格調の高さは、この作者ならではのものと思う。
 遷子の句に〈桑解くや痩せてかがやく峰の雪〉がある。このまり子作品の「桑ときて」は、まさに敬愛する遷子への想いに繋がるものであろう。(町野けい子)
桑ときて夕星匂ふばかりなり

古賀まり子

 公益社団法人俳人協会 俳句文学館514号より