俳句カレンダー鑑賞  令和7年7月

俳句カレンダー鑑賞 7月
せみの木のうしろ一切夕茜 村上鞍彦

 句集『遅日の岸』掉尾に収められた句である。あとがきには、(結社代表 山上樹実雄先生の)「ご冥福を祈る思いを込めて、先生の訃報を受けた日に詠んだ」とある。
 掲句は美しい写生句として読むこともできるが、作句の事情を知った途端、「一切」の、截然とした語感が読み手の胸に強く迫ってくる。
 蟬の木の背後に広がる茜色の空は師の旅立たれた世界であり、作者が賜った師恩の象徴でもあろう。蟬は頻りに鳴いているが、その声は夕茜に溶け込むかのようで、静謐な風景が思い浮かぶ。
 作者は山上先生から結社を受け継ぎ、三十代半ばで主宰となられた。以降、自身を頼りに句境を深める他なかった孤独感を想う時、私は結社の一員として作者の指導を仰ぐことができている幸せを痛感するのである。
(桑原 規之)
せみの木のうしろ一切夕茜

村上鞍彦

 社団法人俳人協会 俳句文学館650号より