俳句カレンダー鑑賞  令和7年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
波除に夕日とどまる祭かな 安立公彦
波除に夕日とどまる祭かな

安立公彦
 平成7年の作。安立公彦句集『早春』に所収。作者はこの年の春、定年を迎えられた。その際〈世の外の春暁一歩よろめくな〉と詠み、ご自分を鼓舞されています。夏、記念の旅で大和方面へゆかれます。この波除はテトラポットとも淡海の防波堤かもしれません。寄せては返す風波が波除に砕けている。その度に波頭に夕日のきらめきが激しく踊っている。ふと耳をすますと町の祭囃子が遠くかすかに聞こえる、という景であったと小子は鑑賞します。しかし「波除に夕日とどまる」は単なる写生ではなくひょっとして作者の心象ではないだろうかと思うのです。
 人生の節目「定年」を迎えられた「安堵と動揺」をこの景に込めて詠んでおられるのではと鑑賞をひろげます。これからの半生へ、はやる気持ちを「祭囃子」に置き換えておられたのかも知れない。作者はこの後に第五代の春燈主宰という大任を引き受けられることになります。
(栗原 完爾)
 社団法人俳人協会 俳句文学館648号より