俳句カレンダー鑑賞  令和5年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
草笛でなにか言はうとしてをりぬ 谷口智行

 平成11年作。第一句集『藁嬶』所収。作者は熊野の風土詩をテーマに俳句を詠む。熊野の海と山の光と影の中で、一人の感じやすい少年に詩人の魂が育まれるのは自然のことであろう。作者は近著『窮鳥のこゑ』に、「すべての始まりに言葉がある」と記すが、その言葉になる前のことばのようなもの、つまり原始的なことばを、掲句の「草笛」に感じるのである。
 作者は平成5年、郷里でクリニックを開業。その多忙な医業の心の隙間を埋めるように「熊野大学俳句部」に入会。以来、茨木和生に師事する。平成24年に編集長、同30年、副主宰を経て、令和4年、「運河」三代目主宰に就任。掲句から24年、今もナイーブな少年のような含羞と繊細さを持ちつつ、熊野の男らしい大胆さも加わり「運河」の先頭に立つ。
(山内 節子)
草笛でなにか言はうとしてをりぬ

谷口智行

 社団法人俳人協会 俳句文学館624号より