俳句カレンダー鑑賞  令和3年5月

俳句カレンダー鑑賞 5月
きしきしと牡丹は莟をゆるめつつ 山口青邨
きしきしと牡丹は莟をゆるめつつ

山口青邨
 山口青邨は、昭和6年杉並区和田本町に移り住んだ。野草、雑草をこよなく愛し、散歩がてら見つけては植えた。そして季節ごとに多くの花が咲き乱れる自庭を「雑草園」と称した。また花の王といわれる牡丹が好きで、一年を通して手を入れて寵愛した。全句集13冊の中で収載されている牡丹の句は150余句。掲句は昭和38年作。よそでの牡丹の句もいくつかはあるが、ほとんどが雑草園で詠んだものだ。
 赤い殻を被った冬芽が春の日差しを浴び、日々膨らむ莟のありようを科学者の眼で観察した。やがて莟をほどき始めるときを迎えた。花を迎える心の昂ぶり、牡丹の莟が緩んで来たところを捉えていて絶妙である。
 きしきしは硬い緊縛したものの緩むさまで音を立てるかもしれない、と自註にある。
 青邨は、この句によって牡丹の開く本質を摑んだと言っても過言ではない。あたかも音を立てながらゆっくりと莟をほどいていくかのような光景が目に浮かぶ。
(染谷 秀雄)
 社団法人俳人協会 俳句文学館600号より