俳句カレンダー鑑賞  令和3年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
白川村夕霧すでに湖底めく 能村登四郎

 昭和30年、作者44歳のときの作。この頃、合掌造りで有名な白川郷が御母衣ダム建設のため、湖の底に沈むと報じられて社会問題となっていた。この状況を自分で確かめようと一人で訪ねた。
 夕暮を迎えた村は折からの霧で、すでにダムの湖底に沈んでいるかのようであり、滅びゆくものへの哀惜を感じた。
 作者は当時「馬醉木」に所属していたが単なる自然詠に満足せず、俳句に風土性、社会性を追求しようとしていた。そしてこの時の取材をもとに『俳句』に「合掌部落」35句を発表した。この句はその一つで、白川郷に建つ句碑〈暁紅に露の藁屋根合掌す〉の句と双璧をなすものである。
 この一連の作品により、翌31年、現代俳句協会賞を金子兜太氏と共に受賞、翌年に第二句集『合掌部落』として上梓した。
(杉本 光祥)
白川村夕霧すでに湖底めく

能村登四郎

 社団法人俳人協会 俳句文学館604号より