俳句カレンダー鑑賞  平成27年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
高舞ふや杉の美林の秋燕 小路紫峽

 今年、日本で生まれ育った燕かも知れない。南の国へ飛び立つ前、自分が育った場所に名残を惜しみつつ、何度も何度も見極めているようだ。
 この句は高野山参詣の下山の折に、夕方、大杉の美しい林の上を高舞う秋燕に心引かれ作られたと聞いている。
 高野杉は奥の院参道に見られるような、巨木に育つ霊木でもある。その美林の上を飛翔しながら燕は「八葉の蓮台」にも例えられる周囲の峰々を忘れまいと、心に刻んでいるのだろう。
 高野山は弘法大師がこの地に道場を開いて1200有余年。今も大師が衆生を見守られている場所でもある。
 長旅を恙なく終えて、来春は「また元気に母親のような高野山に戻って来いよ」という作者の温かい思いが伝わってくる句である。(西村  修)
高舞ふや杉の美林の秋燕

小路紫峽

 社団法人俳人協会 俳句文学館533号より