俳句カレンダー鑑賞  平成26年6月

俳句カレンダー鑑賞 6月
蛍とぶ闇の底なる千枚田 栗田やすし

千枚田は棚田の別名。古来農民が、乏しい耕作地を少しでも広げるために、営々と作り上げてきたものだ。
 丘や山の急斜面を階段状の水田に変えてゆき、「天に至る」と言われるほどの大事業をやってのけたのである。
 そのたくましさを讃えて、山口誓子は〈天耕の峯に達して峯を越す〉と詠んだ。だが一面、それは貧窮し、追い詰められ、困り果てた末に、農民たちが選び取った絶望的な行動の表れでもある。
 やすしの句が彼らの英雄的な営為への感嘆ではなく、呻吟と苦闘への共鳴を核としていることは、「闇の底なる」という重い表現にも明らかだ。
 そうした意味では、作者の師である沢木欣一が主唱した「社会性俳句」に連なる作品とみることもできる。
 深い闇の中で輝く蛍火は、先人たちの生命力の象徴とも思われる。(河原地英武)
蛍とぶ闇の底なる千枚田

栗田やすし

 公益社団法人俳人協会 俳句文学館518号より