第62回全国俳句大会 一般の部

開催日:令和5年9月12日  於:有楽町朝日ホール

【大会賞】

金魚買ひ水の重さを持ち歩く   関戸信治(東京都)

ただそこに立つために訪ふ爆心地   今井文雄(大阪府)

メモになき鯛焼二つ買ひにけり   池田萩邨(広島県)

難民の手に囲まるる焚火かな   牛飼瑞栄(長崎県)

鳥を呼ぶアイヌの歌よ木の根明く   島貫恵(埼玉県)

【秀逸賞】

夏芝居影絵のやうに始まりぬ   浦田祐子(東京都)

搾乳機洗ひ清めて卒業す   松下宏民(神奈川県)

能登半島海へ海へと田水張る   内田廣二(東京都)

耳飾りはづし夜学の席に着く   古賀勇理央(愛知県)

固まりをほぐせば四匹の子猫   小野雅子(滋賀県)

春泥を飛び越え走者また走者   廣瀬あや子(岐阜県)

膝ついてしまへば本気潮干狩   飯干久子(宮崎県)

背負ふ子に若布にぎらせ若布干す   長浜よしこ(神奈川県)

亡き夫と選びし墓に詣でけり   平野征子(東京都)

代替りせし顔ばかり農具市   中坪達哉(富山県)

鳥雲に入る消印の街遠し   森瑞穂(岐阜県)

 

※各選者の特選は3句ですが、類句や既発表句があった作品は削除しています


石井いさお特選
難民の手に囲まるる焚火かな   牛飼瑞栄

伊藤伊那男特選
夏芝居影絵のやうに始まりぬ   浦田祐子
返したる平目に貌の無かりけり   瀬戸幹三
亡き人の分も米研ぐ彼岸かな   塩野谷慎吾

井上弘美特選
ただそこに立つために訪ふ爆心地   今井文雄
天辺に捨てられし田や田螺鳴く   小黒音榮
しばらくは燕見てをり往診医   川村清子

今井聖特選
日永し待合室のシーラカンス   四十物文代
桜蘂ふるもう犬は飼へないと   安藤潤子
ピラミッド観ぬうち日焼して老いぬ   土井妙子

今瀬剛一特選
歌垣の山懐の初音かな   佐々木リサ
春灯のぽつんと夢を見てゐるか   祐森司
ふるさとの山は濡れ色春の月   秋山蔦

上田日差子特選
耕人のまづ一握の土を見る   中村鈴子
実よりも虚のおもしろき瓢かな   守作けい子
梅の実を捥ぎて闇夜を軽くせり   石森千賀子

大串章特選
島の子の海へこぎ出す半仙戯   島村博子
王妃の名木札に残し薔薇枯るる   富田範保
落花あび白寿近しと思ひをり   西村博子

小川軽舟特選
炊き立ての新米稚のにほひせり   渡里トモ枝
鵜籠編む竹ひるがへす小春かな   坂本たか子
桜咲き村は昔をとりもどす   保田敏子

小澤實特選
食べて寝て遊んで食べて寝る子猫   阿川暢子
春泥を飛び越え走者また走者   廣瀬あや子
搾乳機洗ひ清めて卒業す   松下宏民

櫂未知子特選
白南風や海へ尽きたる滑走路   坂本たか子
子燕の空の青さにまだ触れず   関口喜代子
鳥雲に入る消印の街遠し   森瑞穂

角谷昌子特選
広島忌鉄柱の影濃かりけり   坂本たか子
線量が分けるふるさと水温む   田中衡子
逃げ水を追うて一世を老いにけり   竹内柳影

加古宗也特選
月山に雪の来てゐる薪棚   鈴木あい
母の日や母の幸せ妻に見る   三界峯

片山由美子特選
こんなにも立派な空家犬ふぐり   野村タカ子
蕗の薹風に隠れてをりにけり   為成央子
部屋に礼言ひて退院朝ざくら   田村登代子

栗田やすし特選
父母眠る被曝の丘やかげろへる   小谷一夫
十二月八日しづかに拭ふ老眼鏡   天野みつ子
枯葉落つふつと力を抜くやうに   喜多村純子

古賀雪江特選
ただそこに立つために訪ふ爆心地   今井文雄
上げ潮の川の匂や地蔵盆   坂本たか子
能登半島海へ海へと田水張る   内田廣二

小島健特選
遠き日をまあるく抱いて日向ぼこ   関戸信治
返したる平目に貌の無かりけり   瀬戸幹三
獣医来てまづは牛虻払ひけり   中川正男

佐怒賀直美特選
金魚買ひ水の重さを持ち歩く   関戸信治
大夏日船は腹より水吐けり   坂本たか子
背負ふ子に若布にぎらせ若布干す   長浜よしこ

嶋田麻紀特選
啓蟄や買はずに出づる地下の書肆   脇本妙
薄氷のみづとなりゆくひとところ   佐藤升子
鳥を呼ぶアイヌの歌よ木の根明く   島貫恵

白濱一羊特選
ひとつでは寂しきものに風車   西田洋
ふらここや押せば遠のく子の背中   横滝友子

鈴木しげを特選
大根引く父へ船笛鳴らしけり   長浜よしこ
角伐の枕の土を払ひけり   倉谷安子
今川焼頰にもあてて家路かな   松原吉信

染谷秀雄特選
代替りせし顔ばかり農具市   中坪達哉
袋掛梯子の影の消ゆるまで   田端千鼓

谷口智行特選
石鹸玉吹く子に出発の時間   徳永真弓

德田千鶴子特選
咳の夜の背中に母の手の記憶   宮丸千恵子
贅沢の出来ぬ母ゐて終戦忌   角宮しづか

中坪達哉特選
仕舞湯の菖蒲でみがく踵かな   玉井瑛子
表札に考生きてゐる帰省かな   樫本聖游子
菜の花の眩しき道を兄見舞ふ   萩原まさこ

中原道夫特選
固まりをほぐせば四匹の子猫   小野雅子

仲村青彦特選
揃ふまで言葉つつしむ雑煮の座   足立歩久
亡き夫と選びし墓に詣でけり   平野征子

西村和子特選
代替りせし顔ばかり農具市   中坪達哉
蕗の薹ばかりの魚籠を覗かるる   藤岡滿
嶺ざくらなだれなだれて熊野灘   稲垣いつを

西山睦特選
流し雛一縷の水も濁さざる   岩波千代美
金魚買ひ水の重さを持ち歩く   関戸信治
桃咲くや乳房を離し嬰ねむる   南﨑文代

野村亮介特選
扇閉ぢ己も閉ぢてしまひけり   福井隆子
仕舞には消えて無くなる雪なれど   岩崎とし恵

能村研三特選
夏芝居影絵のやうに始まりぬ   浦田祐子
花吹雪正気狂気の中にゐる   小俣たか子

蟇目良雨特選
耳飾りはづし夜学の席に着く   古賀勇理央
十薬の庭から上る生家かな   鈴木勝也
思ひ出のへこみしままの夏帽子   曽根新五郎

福永法弘特選
ほっとけば直る仲なり衣被   髙埜健蔵
国境の島へマフラー巻き直す   山中悦子
世界史の窓から平らかなるプール   嶋田伸子

藤本美和子特選
ただそこに立つために訪ふ爆心地   今井文雄
メモになき鯛焼二つ買ひにけり   池田萩邨

松尾隆信特選
メモになき鯛焼二つ買ひにけり   池田萩邨
花御堂羽根のきれいな鳥よぎる   渥美絹代

松岡隆子特選
ここからは原発敷地いぬふぐり   島田章平
中継地からも蟬声黙禱す   大石香代子

南うみを特選
この場より出撃せしと花菜揺る   島津教恵
桜鯛しばし包丁動かざる   中村我人

三村純也特選
吊橋を蛍の国へ渡りけり   木下涼薫
よろづ屋の日除がバスの待合所   金谷洋次
亀鳴くや行けたら行くといふ返事   富川元女

村上喜代子特選
春泥を飛び越え走者また走者   廣瀬あや子
河豚刺の一片づつに柿右衛門   大矢知順子
指組みてただ春暁の中にをり京   大藪眞知子

森田純一郎特選
難民の手に囲まるる焚火かな   牛飼瑞栄
よろづ屋の日除がバスの待合所   金谷洋次

横澤放川特選

向日葵の空と大地が戻るまで   荒川月
ただそこに立つために訪ふ爆心地   今井文雄
原爆忌指一本で開く傘   梅津紀子


【当日句会】


菅野孝夫特選
ラグビーのゴールポストや鰯雲   萩原敏子
虫食と知りつつ拾ふ山の栗   長谷部数代
落葉松に落葉松の雨秋の雨   内田恵里子

中西夕紀特選
いわし雲一便早く赴任地へ   茨木紀子
海のほか見えぬ岬や鷹渡る   田村登代子
秋晴や白きポケットチーフさし   牛田修嗣

檜山哲彦特選
北海のあをが焦げゆく秋刀魚かな   髙橋流行
牛乳は朝の匂や震災忌   藤川英司
嬰いつも尻より笑ひ秋桜   櫛部天思

藤田直子特選
曲がりたる大き古釘震災忌   山本ふぢな
保育器の二百十日のつむじかな   前田拓
よろこびのかたち手中に桃ひとつ   桂田哲夫

森岡正作特選

月山へまこと大きな西瓜切る   青木百々子
籠を編む竹の弾けて涼新た   石井洋子
母にまだ零余子の蔓を引く力   山下由理子

山西雅子特選
ははの声忘れし耳や法師蟬   石川笙児
鳥小屋の小さき入口鳳仙花   関波対子
虹淡く夕べにかかり吾も淡し   平間裕子