第60回 全国俳句大会 一般の部

【大会賞】

故郷の雪を下ろしに帰りけり  西方来人(長野県)

藪漕ぎの探梅行にならうとは  平尾美智男(兵庫県)

大根を跨ぎ大根引きにけり  西尾敬一(三重県)

木の芽晴働く靴を磨きけり  万代紀子(島根県)


【秀逸賞】

バレンタインデー二人で眠る墓を買ふ  小林眞彦(埼玉県)

津波来し海を眩しみ牡蠣をむく  富田範保(愛知県)

よどみなき手話もて謝辞や卒業す  鹿目京子(福島県)

受験果つこんなに笑ふ子でありし  脇坂琉美子(富山県)

合格のまばゆき肱を触れ合ひぬ  藤岡滿(大阪府)

母の字の父の手紙や春灯  小山蓮子(東京都)

稲滓火や顔暮れて声暮れ残り  讓尾三枝子(大阪府)

百日を織る百日の雪明り  小黒音榮(新潟県)

ゴリラ舎に来て胸たたく遠足児  倉田信司(和歌山県)
 


伊藤伊那男特選
天帝へ神輿一噸差し上ぐる  江藤隆刀庵

茨木和生特選

藪漕ぎの探梅行にならうとは  平尾美智男
祭来と鶏一羽届きけり  東垣外かんな
受験果つこんなに笑ふ子でありし  脇坂琉美子

今井聖特選
鯊の竿混んでどこにもゐない夫  沼舘斐佐子
新緑の山は間合をつめて来る   角田夏子
三月十日上野を山といふ母と  平井葵

今瀬剛一特選
亀鳴くを待つたつぷりの家居かな  加藤草雲
厚き辞書開く卯の花腐しかな  山崎和子

大石悦子特選
三度目の土筆は卵とぢにせよ  大井篤子
母の字の父の手紙や春灯  小山蓮子

大串章特選
海鳴りは花菜明かりの向かうより  平野哲斎
蒲公英や叱る目許の笑ひをり  稲田節子
流れゆく椿を追うて椿落つ  岩水節子

岡田日郎特選
綿虫や札所へ続く石畳   髙橋信子
一人づつ富士塚上り春惜しむ   渡辺花穂

小川軽舟特選
廃線の終着駅の桜かな   多田三子
逝く夏やエンドロールに波の音   中里とも子

小澤實特選
着物解くにぎりばさみの冷ゆる夜ぞ   長谷川せ津
葺替への衆へ投げ上ぐ缶コーヒー   成重佐伊子

櫂未知子特選
子の恋のその後を知らず冬林檎   矢野みはる

角谷昌子特選
帰らざる人の椅子置く海市かな   藤田美和子
百日を織る百日の雪明り   小黒音榮
白日の蟻が土吐く爆心地   大島幸男

加古宗也特選
宗祇水温むや下駄屋多き町   早崎美弥子
巣箱掛く子に先生の肩車   小黒音榮

柏原眠雨特選
教会に樏揃ふ一家族   矢沢寿美
白玉や店の奥なる五十鈴川   小谷武生
母の字の父の手紙や春灯   小山蓮子

片山由美子特選
水仙へ波音高き岬かな   坂本たか子
ハンカチの木の花いつもどこか揺る   山岸美代子
木の芽晴働く靴を磨きけり   万代紀子

栗田やすし特選
津波来し海を眩しみ牡蠣をむく   富田範保

よどみなき手話もて謝辞や卒業す  鹿目京子

古賀雪江特選

稲滓火や顔暮れて声暮れ残り  讓尾三枝子
里神楽の一笛星を弾き出し   植田桂子
ディスタンスたがひに躱す春日傘   井上まさみ

小島健特選
真つ青な風にふくらむ捕虫網   野上卓
雪搔いて搔いて一日終りけり   杉本恵子
春の来るたびに草の名忘れけり   大木雪香

佐怒賀直美特選
剪定の枝みな空へゆく途中   江角純子
白日の蟻が土吐く爆心地   大島幸男
翻車魚のぷくと息つぐ日永かな   後藤菊子

鈴木貞雄特選
津波来し海を眩しみ牡蠣をむく   富田範保
アネモネや胸に手を置く手話の愛   古賀宣道
落葉松に木の香水の香猟期果つ   佐藤祥子

鈴木しげを特選
まなうらにちちははおはす踊かな   冨沢昌晴
青き踏む百歳さほど遠からず   志村宗明


染谷秀雄特選
蝶くぐる正倉院の高き床   森下まゆみ

德田千鶴子特選
受験果つこんなに笑ふ子でありし   脇坂琉美子
子が病めば乳房が痛む霜夜かな   日小田香奈

中原道夫特選
ゴリラ舎に来て胸たたく遠足児   倉田信司
剪定の枝みな空へゆく途中   江角純子

仲村青彦特選
煮凝や箸の先まで日本海   波切虹洋
妻癒えよ葛湯を吹けば息の渦   特湯浅康右

西嶋あさ子特選
団塊の世代も老いぬ葱坊主   椎名佐和子
墨で描く白の白さや白牡丹   柳澤二重

西村和子特選
ランドセル放りてまたも雪の中   田中ひろこ
新雪で手のひら拭ふ獣医かな   城子康子

西山睦特選
たましひを注ぎ込まれて水中花   小林道彦
会津塗継ぐ少年の端午かな   岩淵彰
紙漉の若き水ほどよく躍る   永野佐和

野中亮介特選
故郷の雪を下ろしに帰りけり   西方来人
三寒の抱つこ四温の乳母車   和田満水
妻癒えよ葛湯を吹けば息の渦   湯浅康右

能村研三特選
哲学の光の中を麦踏めり   倉科繁登
寒柝や浅草らしき柝の響き   藤原千代子
神の山大紫を遣はしぬ   原霞

福永法弘特選
バレンタインデー二人で眠る墓を買ふ   小林眞彦
炎天を来てふるさとの戦争展   関口喜代子
合格のまばゆき肱を触れ合ひぬ   藤岡滿

藤本美和子特選
大仏の螺髪に遊び雀の子   福田啓一
大川のきらきら光る夏期講座   森田幸夫
木の芽晴働く靴を磨きけり   万代紀子

星野恒彦特選
春服を着るポケットの無き不安   村瀬幹枝
聞きなれぬ囀りのあり旅の朝   下村幸夫

松尾隆信特選
タンカーの底ぬけてゐる海市かな   小黒音榮
踏青や問へばふくらむ子の大志   久保田直
大夕焼け人に失望したる日の   島貫アキ子

松岡隆子特選
高き樹に高き空ある夏料理   倉谷安子

三村純也特選
父の背が跳箱がはりこどもの日   髙埜健蔵
生み立ての息するごとく寒卵   大塚喜子
大漁旗櫓になびく踊かな   古賀勇理央

村上喜代子特選
蛞蝓頭がありて進みけり   浅野義信
息合ひて伴走ロープ風光る   井土絵理子

森田純一郎特選
海女の桶箍青々と積まれをり   讓尾三枝子
初蝶のくる一片の詩のごとく   岩水節子
黒船に騒きし浜や大根干す   斎藤利明

山崎ひさを特選
会津塗継ぐ少年の端午かな   岩淵彰
大根を跨ぎ大根引きにけり   西尾敬一
退院の妻と二人の豆ご飯   山田康教