第53回全国俳句大会 一般の部

開催日:平成26年9月17日  於:有楽町朝日ホール

【大会賞】
野馬追の武者となる髭のばしけり   三上昭俊
ぼろ市に買ふ気の膝をつきにけり   林八重子
芋の露二転三転して落ちず      古賀勇理央
かまくらのどの子も膝を崩さざる   加計姷
金魚田の千匹といふ色動く      阪上多惠子

【秀逸賞】
春水の何に汲みても光りけり     中島一雄
泣きながらなまはげの藁抜く児かな  藤野尚之
はたた神この世叱つてをりにけり   廣田絹子
ボタ山の雨を見てをり生身魂     水野李村
封じたる窯に夜毎の青葉木菟     本村幸子
流灯の見えなくなりてより祈る    佐藤信昭
卒業の日の校庭の広さかな      樫本聖游子
手の中にやはらかき手や七五三    矢崎すみ子
十夜粥箸にかからぬもの啜り     大谷昌子
遠足の列が宇宙へ科学館       三宅忠昭

有馬朗人特選
早春や山羊ゐる島の教会堂      大橋洋子

茨木和生特選
婚の荷に足すふるさとの桜苗     渥美絹代
左義長に沖より闇の来たりけり    坂本たか子

今瀬剛一特選
鳰浮き出でてさざ波の光ぜめ     桜井眞子
芋の露二転三転して落ちず      古賀勇理央
かき氷海より径のはじまれり     下川冨士子

今井聖特選
五百年の緑陰に入る捕虫網      穂阪幹子
本当の母の日はわが誕生日      林力朗
噴水に椅子の二人の鋳物めき     中村夢窓

大石悦子特選
天涯に水脈曳く雁の別れかな     北川保雄
あたたかや季語が二つの母の遺句   中野しおん
オルガンをふがふがと踏む猫の恋   濵口則子

大串章特選
畑中に大桜あり墓所の在り      酒井康正
卒業の一人は島に残りけり      西中以耶乃

岡田日郎特選
大空へ富士の聳ゆる茶摘みかな    伊藤弖流杞
神代より湧きて溢るる泉かな     山内繭彦
封じたる窯に夜毎の青葉木菟     本村幸子

小川軽舟特選
辛夷咲く家より母の棺出す      土田紫翠
流れゆく時間のなかのさくらかな   横山冬都
ボタ山の雨を見てをり生身魂     水野李村

小川濤美子特選
春水の何に汲みても光りけり     中島一雄
手の中にやはらかき手や七五三    矢崎すみ子

小澤實特選
寒天干す行き来の畦を踏み崩し    丸山ますみ
水風呂を浴びて来たれり鶏合せ    松村幸代

小原啄葉特選
芋の露二転三転して落ちず      古賀勇理央
何を蒔くかは耕してからのこと    岡田游子

鍵和田柚子特選
はたた神この世叱つてをりにけり   廣田絹子
ボタ山の雨を見てをり生身魂     水野李村
大年の羽畳むごと暮れ行けり     小黒音榮

柏原眠雨特選
野馬追の武者となる髭のばしけり   三上昭俊
ぼろ市に買ふ気の膝をつきにけり   林八重子
手放せる畑の桃の花盛り       荻野正雄

片山由美子特選
雲に乗りたき日もあり八十八の春   藤井青咲
金魚田の千匹といふ色動く      阪上多惠子

神尾久美子特選
玲瓏と揺るる大島桜かな       平田雄公子

神蔵器特選
立山は天に座るや種おろし      原瞳子
子燕の喉の奥まで餌を運ぶ      大平和男

倉田紘文特選
野遊や膝に来る子の日の匂ひ     田村登代子
憎きものこの世にあらず仏生会    不破鏡子
燃ゆるもの秘めたる太さ牡丹の芽   間宮あや子

栗田やすし特選
老いてなほ若き兄ゐる沖縄忌     横山多加子

小島健特選
偕老や妻が豆炒り夫が撒く      柴田勇
ふるさとのホテル泊りの暮春かな   山本空治

斎藤夏風特選
春日傘海へ空へと回はしけり     福田雅子
封じたる窯に夜毎の青葉木菟     本村幸子
枯欅夕日くまなく照らしけり     土田啓三

鈴木貞雄特選
雪割つて学僧開く写経堂       細野政治
百重なす山脈の襞こぶしの芽     山本久美
黙祷の顳顬に一と筋の汗       福山良子

鈴木しげを特選
須臾にして雪の奈落となりにけり   小林呼溪

鷹羽狩行特選
流氷の去りて一湾のこりけり     山崎秀夫

棚山波朗特選
震災の語り部にして桜守       松本愛子
風船を突くたび音の新しく      船木紅花

辻田克巳特選
この国をこよなく愛し水を打つ    新井不二夫
遠足の列が宇宙へ科学館       三宅忠昭
聞いてやるだけの励まし春炬燵    石丸千恵子

中原道夫特選
「オーイ」とは放物線に似て長閑   栗山朗子
暮れかねてゐる箒目の清しさに    藤田房子
マスクして心を鎧ふ少女かな     平田はつみ

西嶋あさ子特選
切株は空を思へり百千鳥       中村榮一
朝雲の静かに晴れて原爆忌      三原玉水

西村和子特選
十夜粥箸にかからぬもの啜り     大谷昌子
海鳴の墓所訪ふのみの帰省かな    松原ふみ子

根岸善雄特選
なはとびを回し光の輪を廻す     中西恭代

西山睦特選
春水の何に汲みても光りけり     中島一雄
遍路バス発ちし辺りの静寂かな    谷川和子

野中亮介特選
巣箱抱く木とて仰がれ名を知らず   井原美鳥
遠富士の頭上へとべる剪定枝     井原美鳥
蝌蚪の紐ほどけて子らのゐない村   古賀宣道

野見山ひふみ特選
千年の礎石を容れて大枯野      樫本聖游子
正座して子規庵にをり虚子忌なり   松本英夫
生涯を水に仕へて紙を漉く      岩水節子

深見けん二特選
枯欅夕日くまなく照らしけり     土田啓三
みづうみに日のゆきわたり初桜    村片秀哉
水音のここも坊跡ほととぎす     井手英子

福永法弘特選
野馬追の武者となる髭のばしけり   三上昭俊
氷上にストーンを放ち瞬かず     徳田文三

星野恒彦特選
大根を抱き鍵穴さぐりけり      東条幸枝

正木ゆう子特選
「オーイ」とは放物線に似て長閑   栗山朗子
探梅と云ふ身支度の勇ましく     枡野雅憲
冬波に乗る冬波のあるばかり     稲垣長

黛執特選
村ひとつ鳶の輪の中春田打      野村美智子

水原春郎特選
遷宮の千木燦然と初日の出      原田和子

三村純也特選
客席に白塗りの子も村芝居      若林杜紀子
ぼろ市に買ふ気の膝をつきにけり   林八重子
作業着の折り目くつきり入社式    桐生紫

山崎ひさを特選
婚の荷に足すふるさとの桜苗     渥美絹代
夫のもの干せる幸せ天高し      和佐佐代子

山本洋子特選
磯桶に蓬を摘んで帰りけり      西尾敬一
岩礁の浮いては沈み春の潮      山中悦子
文豪の屋敷跡なる猫の恋       赤峰ひろし

【当日句会】

鈴木貞雄特選
天窓に星座を迎へ今年藁       寺島ただし
母撫づるごとく手熨斗やちちろ鳴く  出口裕興
介護する爪を切る日や星月夜     加藤ヨシ子

永方裕子特選
天窓に星座を迎へ今年藁       寺島ただし
先生が吹いても鳴らぬ瓢の笛     松川洋酔
一頭に一家より添ふ馬の市      坂口晴子

能村研三特選
地下鉄を乗りついでゆくむしごかな  土橋モネ
鰯雲素数のごとく浮かびをり     齋藤敦宣
無月かな酔はぬ酒などどこにある   町山公孝

西村和子特選
台風の来るか草々立ち上がり     恒川絢子
先生が吹いても鳴らぬ瓢の笛     松川洋酔
星月夜最終便が機首を下げ      水垣道子

根岸善雄特選
大いなる虫籠わが家つつみけり    廣田絹子
夜をこめて棚田に響く落し水     柴田初子
先生が吹いても鳴らぬ瓢の笛     松川洋酔

村上喜代子特選
富士を背にぶだう摘む日日是好日   村井照子
鰡の飛ぶ度に次待つこころかな    加藤美子
どちらかと言へば幸せ小鳥来る    原瞳子