今月の俳句
- 俳句カレンダー鑑賞 10月
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晩年といへばむらさき湿地など
三田きえ子三田きえ子主宰は、去る7月8日に93歳にて永眠された。この原稿依頼をうけて間もなくのことであった。
この句は平成14年の作で、第5句集『初黄』(平成15年刊)に収められている。あとがきに「私生活および俳句生活の上で大きな転機を迎えた」とある。「畦」の上田五千石、「畦」につづく「かなえ」の本宮鼎三の相次ぐ急逝によって、平成12年に「かなえ」を「萌」と改め、主宰に就任したことを指す。
平成14年といえば主宰は70代を迎えたばかり、「萌」の充実に尽力していた時期である。ただ五千石、鼎三両師の逝去によって「晩年」に思いをめぐらすことは想像に難くない。
「むらさき湿地」は傘も茎も傘うらの襞もすべて美しい紫色という。煮炊きしても紫色のままで美味とある。滋味ある美しい晩年を希求したと読める。
先行する〈晩年といふはなやぎの白地かな〉(平成8年)の句境を深めている。
心よりご冥福をお祈りします。
(岡 葉子社団法人俳人協会 俳句文学館653号より