第5回 三月のライオン
「二八月荒れ右衛門」、「二八月に可愛い子を船に乗せるな」は、旧暦二月と八月(現行暦の三月と九月)に「あらし」が多いことを言ったものである。前者は春の温帯低気圧、後者は秋の台風である。「彼岸涅槃の石起し」は石を吹き飛ばすような春の強風を指す。
春に「あらし」が多いのは、北に勢力圏を縮小していく寒気団と南から広がってくる暖気団が、温帯低気圧の発達を媒介として、激しく衝突するからで、北半球の中緯度帯の多くの国々に共通の現象である。英語の諺の「三月はライオンのようにやってきて子羊のように去る」のライオンは温帯低気圧の「あらし」、子羊は移動性高気圧の晴天。中国ではライオンではなく「春風ノ狂フハ虎ノ如シ」。
「二八月の掌(てのひら)返し」は温帯低気圧や台風の通過時の風向急変を言ったものだが、春は人事異動の季節、人はさまざまな「掌返し」に出会う。そこで「世の中は月に叢雲、花に風、思うに別れ、思わぬに添う」と話を人生に拡大する。英語の諺に「三月は多様な空模様(March many weathers.)」というのがある。韻を踏んだ言い回しのようなので、意訳してみると「三月燦々、三月惨々」。しかし一方で、「風の三月と雨の四月が美しい五月を作る」ともいう。英語の諺にも「人生のお天気歳時記」が多い。
