第55回全国俳句大会 一般の部

開催日:平成28年9月6日  於:有楽町朝日ホール

【大会賞】
原爆の碑へ遠足の列正す 愛知 山本光江
がうがうと潮入れ替る去年今年 愛媛 曽我部剛生
一つづつ空包みゆく袋掛 愛知 古賀勇理央
ごつごつと蝶の影ゆく鋤田かな 神奈川 吉田幸敏
雲梯のみぎ手ひだり手夏が来る 神奈川 千葉喬子
顔出して雨を見てゐる種物屋 三重 橋本石火

【秀逸賞】

しやぼん玉吹く交番の迷子かな 千葉 原瞳子
剪定のあと太陽に見てもらふ 青森 工藤義人
新入りの巡業の荷に捕虫網 千葉 松澤美鈴
白鳥の引きて老人残りけり 東京 谷川治
蕨狩窯場の裏に出でにけり 東京 若林杜紀子
縁側に母の客来て桐の花 神奈川 宮崎登美子
闇汁の闇の中にてよく笑ふ 兵庫 衣笠修爾

【選者特選】
有馬朗人特選
夏潮を蹴つてさそり座立ち上がる 東京 坂本昭子
涅槃図の猫慈しむ絵解僧 愛知 三浦葵水
沈めらるること嬉しくて浮いて来い 千葉 福井隆子

茨木和生特選
秋晴やキリンの顔の下りて来て 三重 山口一世
闇汁の闇の中にてよく笑ふ 兵庫 衣笠修爾
オホーツクの没日大きな花野かな 北海道 野崎声山

今瀬剛一特選
待つ人のゐるかのやうに春障子 愛知 上原敬子
爛爛と目の迫り来るねぶたかな 東京 小栗しづゑ
予後よきと友の文来て茶が咲いて 千葉 石崎章子

今井聖特選
初風呂や溶けてしまふと母の言ふ 静岡 藤原千代子
にはとりが邪魔と言ひをる溝浚へ 京都 神原廣子
梅剪らぬ馬鹿と云はれて尚剪らぬ 熊本 吉本シトミ

大石悦子特選
白地着て老斑の手の置きどころ 三重 畔地佳永子
陽炎を無頼のごとく来りけり 京都 大島幸男
ともに老い時々ひとり冬椿 埼玉 成田清子

大串章特選
名優に名台詞あり夏灯 埼玉 黒澤あき緒
ふる里の銀座通りやかき氷 東京 岡田みさ子
逆縁の墓洗ふ父老いにけり 兵庫 土居三保

岡田日郎特選
硫気噴きつつみちのくの山芽吹く 神奈川 乘田眞紀子
堰堤にサキソフォン吹く暮春かな 埼玉 三好かほる
みづうみのところどころに蜆舟 東京 松宮京生子

小川軽舟特選
鶲来る汲み置きの水凍る日も 奈良 上村佳与
鍬洗ふ水の底まで冬夕焼 三重 松尾紀子
鳶の輪の括る十戸や風光る 静岡 小林美成子

小川濤美子特選
余生とは神のご褒美花の宿 茨城 久保田至誠
しやぼん玉はるけきものを遥かにす 栃木 星田一草
縄飛びに富士を入れんと大廻し 東京 町田 珠子

小澤實特選

啄木の三倍生きて葱坊主 岩手 遠藤あきよし
親方の紺の地下足袋鷹放つ 埼玉 島崎なぎさ
野遊びやペットボトルに名を書いて 千葉 昼間たつお

櫂未知子特選
剪定のあと太陽に見てもらふ 青森 工藤義人
はづさざる一人暮らしの愛の羽根 広島 田村祐巳子
がうがうと潮入れ替る去年今年 愛媛 曽我部剛生

鍵和田秞子特選
物差しで姿勢正され昭和の日 神奈川 原田紫野
ヒロシマのあの朝も蟻きつと列 山口 金澤萬里
地を濡らし売る海のもの在祭 東京 望月澄子

角谷昌子特選
原爆の碑へ遠足の列正す 愛知 山本光江
猟犬の耳立ち森の退きぬ 東京 市村和湖
うぶぎぬの肩上げ深き端午かな 東京 長谷川照子

柏原眠雨特選
新妻を荷台にのせて豊の秋 神奈川 浅木ノヱ
ぐつたりと干されてゐたる海水着 神奈川 瀬戸みさ野
ごつごつと蝶の影ゆく鋤田かな 神奈川 吉田幸敏

栗田やすし特選
足裏に午後の冷えくる舞稽古 愛知 大島知津
工場より通ひ続けて卒業す 兵庫 田中喜郎
母の日や一升釜の炊きあがる 埼玉 小宮和代

黒田杏子特選

ヒロシマのあの朝も蟻きつと列 山口 金澤萬里
しやぼん玉吹く交番の迷子かな 千葉 原瞳子
母よりも三歩前ゆく入学子 大阪 中家桂子

古賀雪江特選
ごつごつと蝶の影ゆく鋤田かな 神奈川 吉田幸敏
風船の赤の売れれば赤を足し 神奈川 吉田ひろし
山頂に立ち遠足の声となる 長崎 縣恒則

小島健特選
素振りしてより追ひかける捕虫網 群馬 木下涼薫
原爆の碑へ遠足の列正す 愛知 山本光江
文机の猫の爪痕日脚伸ぶ 長野 横内孝夫

斎藤夏風特選
伐採の木の香ほのかに芽吹山 石川 吉川静代
夜濯ぎや風に乗り来る田のしめり 埼玉 須賀ゆかり
朝月の架かる欅も初景色 富山 野村邦翠

鈴木貞雄特選
抽斗に未完の詩集月日貝 千葉 鈴木禮子
子らの声ひとつに山車の動き出す 岡山 横田多禾
暁光を流す大河や白鳥来 東京 石崎宏子

鈴木しげを特選
飛込みの全身錐となりにけり 長崎 小谷一夫
縄抛り上げて山家の垣繕ふ 東京 近藤暁代
蕨狩窯場の裏に出でにけり 東京 若林杜紀子

鷹羽狩行特選

一つづつ空包みゆく袋掛 愛知 古賀勇理央
なまはげを見詰め直して泣く子かな 秋田 中村榮一
顔出して雨を見てゐる種物屋 三重 橋本石火

棚山波朗特選
水源は嬥歌の山よ桜まじ 千葉 小俣たか子
破船とも城とも見えて蜃気楼 神奈川 月野木潤子
闇米を負ひし峠や葛の花 埼玉 佐藤弘

辻田克巳特選
もうとまた叱られてゐる夏休み 茨城 植本民代
春分の月と思ひて仰ぎけり 三重 奥谷郁代
柿うまし柿美しと供へけり 千葉 福井隆子

徳田千鶴子特選
農継いでひとりに余る春の空 群馬 川野忠夫
過疎村を裏返しゆく黍嵐 千葉 新津黎子
原爆の碑へ遠足の列正す 愛知 山本光江

戸恒東人特選
夜濯ぎや風に乗り来る田のしめり 埼玉 須賀ゆかり
雲梯のみぎ手ひだり手夏が来る 神奈川 千葉喬子
受験子や付箋はなやぐ参考書 石川 大橋翠節

中原道夫特選
まだ生ぎでゐだがと握手雪解風 青森 野沢しの武
遠足へがばりと開く河馬の口 三重 近藤昶子
霾ぐもり脇腹をかくカンガルー 愛媛 金澤浩子

仲村青彦特選
独り居の誰待つとなく深雪搔く 北海道 中村泉
吊橋の揺れを禰宜来る山開き 愛知 柴田近江
山笑ふ翁と媼そして猫 海外 塚本惠

西嶋あさ子特選
紅梅や石のベンチにおざぶとん 東京 山本佳子
夕刻を蝉の鳴きつぐ知覧かな 石川 小田英生
がうがうと潮入れ替る去年今年 愛媛 曽我部剛生

西村和子特選

手花火の照らして深き父の皺 秋田 佐藤景心
車組むぺこんぺこんと油注し 千葉 柚口満
新入りの巡業の荷に捕虫網 千葉 松澤美鈴

西山睦特選
案山子には申し分なき父の顔 新潟 ?埜健蔵
原爆の碑へ遠足の列正す 愛知 山本光江
工場より通ひ続けて卒業す 兵庫 田中喜郎

能村研三特選
白シャツを帆としハーレーダビッドソン 東京 佐藤真次
さくらさくらさねさし相模けぶりをり 神奈川 近藤久江
BMWかげろふに炎上す 埼玉 新井竜才

藤本美和子特選
息白く洗礼名を呼ばれけり 神奈川 折勝家鴨
一つづつ空包みゆく袋掛 愛知 古賀勇理央
藤房の重なりあうて夜が濃し 兵庫 伊達冨美子

星野恒彦特選

子等駆けてばつたの空となりにけり 三重 川合悦子
怖いほど凧の揚がつてしまひけり 兵庫 瀬戸幹三
朝顔に水やり巡査夜勤終ふ 富山 野村美智子

松尾隆信特選
雲梯のみぎ手ひだり手夏が来る 神奈川 千葉喬子
勝ち鬨のごとき産声桃の花 福岡 池田謙児
淋しさは二日続きの遠花火 東京 樋口裕子

三村純也特選
飛び込んで海女は十歳若返る 鹿児島 内藤美づ枝
萍の一枚板となりにけり 東京 岡本春水
飼ひ主の通夜の灯に浮く金魚かな 千葉 酒井やすじ

村上喜代子特選
若者に若者の音雪を搔く 富山 荒田眞智子
耕人の土舐めて土確かめる 滋賀 田中みつを
山動くごとし羆の立ち上がる 北海道 酒井百合子

山崎ひさを特選

縁側に母の客来て桐の花 神奈川 宮崎登美子
吊橋の揺れを禰宜来る山開き 愛知 柴田近江
貫通の弾痕ありぬ生身魂 愛知 井本洋子

山本洋子特選
先生と海を見てゐる卒業子 広島 杉田久美子
歯切れよき白息牛を糶落とす 栃木 大高松竹
妻の手のよく濡れてゐる木の芽かな 京都 山内利男


【当日句会】

加古宗也特選
いちにちを赤く結んで酔芙蓉  昼間たつお
変はりゆく家族の形墓洗ふ  伊達冨美子
座り胼胝いつしか消えし素足かな  中川いく子

岸本尚毅特選
蟋蟀を食うて野良猫肢もくへ  石田秀子
かき氷分けて家族のやうにをり  市村栄理
冷房に控へゐる間に母焼けて  川野忠夫

嶋田麻紀特選
片裾の紅のみ失せず秋の虹  鈴木久美子
日のしづく散らして竹を伐りにけり  三上程子
錆鮎食ぶしばらく言葉失ひて  伊藤妙

ながさく清江特選
枕辺に明日着る服や生身魂  天野正子
正座して冷麦啜る父であり  登坂かりん
天高し初めて履かすベビー靴  村越陽一

行方克巳特選
トマトのやうな笑顔で負けず嫌ひなり  内山花葉
正座して冷麦啜る父であり  登坂かりん
生身魂行つて来るはとアフリカへ  野口桐花

檜紀代特選

ビル解体見慣れぬ空の秋茜  三浦綾子
まづいとは言はず言はせじ敗戦日  太田昌子
砂糖水ひとり暮しはこんなもの  箕輪マキヨ


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