第54回全国俳句大会 一般の部

開催日:平成27年9月8日  於:有楽町朝日ホール

【大会賞】
遠足の声から先に乗つて来る  入部美樹
白魚の水切つてなほ水の色  笠原みわ子
菱採りの菱引けば水ついて来る  小松生長
田草取り大鯉抱きて戻りけり  山崎秀夫
鉄骨の突端に立ち初仕事  吉田ひろし

【秀逸賞】
眉毛まで焦がしどんどをつかさどる  なかにしたけし
なまはげが父と分りて泣き叫ぶ  川辺 了
くじ引きて海苔掻く岩を当てにけり  小黒音榮
時雨忌の風に松鳴る雄島かな  藤野尚之
伸びきつて火の千切れ飛ぶ野焼かな  中村まもる
水しぶきより飛びだして上り鮎  高本きみ子
荷の布を取り虫売でありにけり  吉田ひろし
闇汁や宇陀の牛蒡の匂ひ立つ  松原綾乃

有馬朗人特選
相模野に残る野鍛冶や下萌ゆる  吉田幸敏
海蠃廻し父の無き子の残りけり  林たかし
子の数の巣箱のこして閉校す  木下敦子

茨木和生特選

呉線の海は青々原爆忌  杓谷純
雪の嵩までも百萬石と言ふ  藤堂くにを
戯るるごとく狐火走りけり  上村佳与

今瀬剛一特選

途中まで見ゆる水深糸蜻蛉  一枝伸
風の行く先々の麦青みけり  永井良和
その先の海に日の入る花野かな  田中愛子

今井 聖特選

遠足の点呼改札入りてまた  植田とよき
雪山を見むとて古き汽車に乗る  正富鼓子
満開の桜の下の不発弾  島田章平

大石悦子特選
海市立つ船の龍骨きしみけり  佐藤祥子
天の川通夜の家より笑ひ声  宮沢房良
時雨忌の風に松鳴る雄島かな  藤野尚之

大串 章特選

衣更へて術後の命惜しみけり  弓削一江
忘れたき軍歌の浮かぶ終戦日  桑原晴嵐
里神楽鬼が台詞を忘れけり  亀井雉子男

岡田日郎特選
田草取り大鯉抱きて戻りけり  山崎秀夫
伸びきつて火の千切れ飛ぶ野焼かな  中村まもる
開け放す孔子の廟や楷芽吹く  島田ヤス

小川軽舟特選

知らぬ子と三月の海見てゐたり  三宅忠昭
吾を見る老人の居り初鏡  川名将義
学生の入れ替る町初燕  矢沢寿美

小川濤美子特選

語るごと子に手紙書く虫の夜  藤城良子
再びの月曜日なる春の風邪  松丸佳代
生きるとはやがて逝く道水澄みぬ  奥村次郎

小澤 實特選

天を突く主審のこぶし夏に入る  井原美鳥
くじ引きて海苔搔く岩を当てにけり  小黒音榮
自転車で来て竹馬で帰りけり  東金夢明

小原啄葉特選
静かにも献血車ゐる祭かな  小林美成子
行く春や一時帰国の人と酌む  北畠明子
流さるるともなく雛の流れゆく  寶子山京子

鍵和田柚子特選
ハンドルの思はぬ熱さ原爆忌  根本眞知子
今生の風の来てゐる踏絵かな  水野幸子
荷の布を取り虫売でありにけり  吉田ひろし

柏原眠雨特選
鉄骨の突端に立ち初仕事  吉田ひろし
豆腐屋へ壬生念仏の鉦ひびく  坂本たか子
老松に梯子が三つ緑摘む  藤原祇美

片山由美子特選
水しぶきより飛びだして上り鮎  ?本きみ子
立山の雲吹き払ひ木の芽風  野村邦翠
遠州の空を押し上げいかのぼり  小林紀代子

神蔵 器特選

大仏のうしろに山の眠りをり  望月稔
囀や新刊本の帯はづす  木原寿美子
鉄壁のごと尼寺の白障子  井手浩堂

栗田やすし特選
炉話の間をとる火箸使ひけり  高橋千恵
初場所へ卒寿の髪を梳きにけり  亀田英子
勝牛を乗せて帰島や花梯梧  筒井慶夏

黒田杏子特選

雪卸す明日また卸す生きをれば  長田久子
なまはげが父と分りて泣き叫ぶ  川辺了
祖母の名の残る礁に鮑海女  尾?亥之生

古賀雪江特選
遠足の声から先に乗つて来る  入部美樹
桜湯のお湯のもつれを揺らしけり  加藤峰子
涅槃西風客土畑になじみゆく  渥美絹代

小島 健特選
曝す書に樺美智子の父の声  和城弘志
暖かやリハビリ室の音いろいろ  都筑典子
大阪はおばちやん元気祭来る  梅村すみを

斎藤夏風特選

白魚の水切つてなほ水の色  笠原みわ子
引鶴の高舞ふ空や農衣干す  西郷重則
藍染を晒す疎水に花の屑  小都妙子

鈴木貞雄特選
父の日や父の働く山深し  望月稔
ひよこ鳴く夜店のいのち明かりかな  菅原悟
菜の花や軍手で磨く仔牛の背  小林美成子

鈴木しげを特選

成人の日の黒髪となりにけり  田村恵子
田草取り大鯉抱きて戻りけり  山崎秀夫
海市より帰りし如く白き髪  永井良和

鷹羽狩行特選
遠足の声から先に乗つて来る  入部美樹
大寒のはんざき岩と化しにけり  内田巳惠子

棚山波朗特選
菱採りの菱引けば水ついて来る  小松生長
白魚の水切つてなほ水の色  笠原みわ子
眉毛まで焦がしどんどをつかさどる  なかにしたけし

辻田克巳特選
こうなごを包んでくれし京言葉  堤宗春
電話すぐ日本へ通じ巴里祭  關茂子
死んでたまるか年寄の大嚏  宮本豊香

徳田千鶴子特選

白魚の水切つてなほ水の色  笠原みわ子
子は要らぬいらぬ鞦韆漕ぎにけり  松下美奈子
大寒の紺をしぼりて日本海  島本流花

中原道夫特選
太陽に噴水の穂の砕かるる  田所節子
めまとひの無数の音に囲まるる  小谷一夫
炭を足しくれし足音たてず来て  今井勝子

西嶋あさ子特選

七十年七十回忌藍を蒔く  小見恭子
艇担ぎゆく清明の堤かな  原田紫野
一本をわが供花とせよ曼珠沙華  土居ノ内寛子

西村和子特選
思ひ立つ事もなけれど西行忌  礒貝尚孝
鳥の影雲の影過ぎ地虫出づ  杉江美枝
見し桜見ざる桜もをはりけり  松田美奈

西山 睦特選
雪嶺や一死なれども父なる死  土生依子
無き家に帰りたき母赤のまま  小島緑泉
なまはげが父と分りて泣き叫ぶ  川辺了

根岸善雄特選

山焼の煤天平の塔へ降る  市場えつ子
菱採りの菱引けば水ついて来る  小松生長
種袋にいのちの重さありにけり  遠藤東子

野中亮介特選

伎芸天に逢ひにゆく日の春ショール  金森教子
茎立や子のなき村になんでも屋  下川冨士子
杖ついて先生の来る涅槃寺  坂本昭子

能村研三特選
目に薬表面張力ありて寒  大山洋子
大寒の紺をしぼりて日本海  島本流花
渦潮の芯に快楽のありにけり  浅井陽子

深見けん二特選
旧正の猪を撃ちたる話など  東一美
窯の火の鎮まり暁のほととぎす  本村幸子
己が影水に映して散る桜  石川紀子

福永法弘特選

満面の笑みに仕上る種案山子  岩波千代美
豆腐屋へ壬生念仏の鉦ひびく  坂本たか子
木琴は日おもての音蝌蚪生る  黒澤あき緒

星野恒彦特選
春潮をひきよせ走る若さかな  春木小桜子
指貫を外し新茶を汲みにけり  大村泰子
回転ドア風船が出て子らが出て  小林紀代子

正木ゆう子特選

末黒野に踏み込んで遠白根かな  長谷部愛子
冬たんぽぽ山羊の首輪の抜けさうな  小林とみゑ
たらちねの言ふ牡丹江いつも雪  原英俊

黛 執 特選
子の部屋のピアノが鳴れり青葉の夜  福井隆子
補聴器をはづし朧に浸りけり  神田松鯉
遠足の声から先に乗つて来る  入部美樹

三村純也特選
ぼろ市のウルトラマンを買ひにけり  平野鍈哉
負けて来てラガー通路を押しとほる  大塚凱
勧進帳持たせ仕上がる菊人形  池谷市江

山崎ひさを特選

トランプを孔雀びらきに春炬燵  柴崎由起夫
子に送る為だけの畑打ちにけり  酒井努
煤逃の行先告ぐる齢かな  太田妙子

山本洋子特選
峰雲をぐいと引き寄す地引網  矢沢寿美
井戸のみを残せる生家牽牛花  小谷一夫
針供養母の手大きかりしこと  田崎道子


【当日句会】

大竹多可志特選

星飛ぶや牛舎へ獣医急ぎゆく  相川幸代
再生の玉音放送朝ぐもり  沢ふみ江
終戦は二十歳の夏と生身魂  尾?亥之生

櫂未知子特選

夕されば鱗まみれの鮭打棒  矢沢寿美
途中まで刃を入れてある大南瓜  寺島ただし
晩年の映るみづうみ澄みにけり  名取里美

仲村青彦特選
石狩の風のつめたき花野かな  長浜よし子
野の萩の勢ひそのまま大壺に  寺島宏
謝つてばかりゐる日よ敬老日  八木澤節

藤田直子特選
新涼や吸ひつくやうに箱と蓋  山下由理子
晩年の映るみづうみ澄みにけり  名取里美
いつよりか祈り短し草の花  ?田正子

藤本美和子特選
ほめられて叩かれてゐる大南瓜  井手浩堂
再生の玉音放送朝ぐもり  沢 ふみ江
天籟に応ふる地籟真葛原  長谷川 耿人

松浦加古特選

反抗期金魚に話しかけてをり   石崎宏子
沈黙を埋める電話の蝉時雨   田代重光
介護されゐてほほづきをほぐしゐる   池田和豊

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