俳句カレンダー鑑賞  平成30年12月

俳句カレンダー鑑賞 12月
冬の蝶吹かるる翅を立て通す 西嶋あさ子

 蝶は春の季語だが四季それぞれ蝶は個性的だ。
 句集『読点』の〈あるまじき死の適齢期蝶凍つ る〉『埋火』の〈金箔のひとひらに蝶生れけり〉など作者は折々に蝶を詠んでいる。
 春をいきいきと飛び回る蝶だが、冬に見かける蝶は寒風に身をすくめ、しかし翅はしっかりと立てている。写生句だが、「立て通す」に作者の心象が重なる。作者の俳句に対する姿勢にも通じるかとハッとさせられる。
 掲句の短冊は、右手首を骨折して左手で支えて書いたという。そう思って見返すと、筆跡から冬の蝶の静かなたたずまいが見え、風の音が微かに聴こえてくるようだ。
   この句は、今年9月に逝去された岡本眸氏が共鳴したと聞いた。どこかつながるものがあるようにも思われる。第3句集『埋火』所収。 (金子 和実)
冬の蝶吹かるる翅を立て通す

西嶋あさ子

 社団法人俳人協会 俳句文学館572号より