俳句カレンダー鑑賞  平成30年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
臭木咲く一岸壁の船溜り 淵脇護

 日を好む臭木は、到る所に自生するが、その旺盛な生命力ゆえに、人の生活圏ではばっさり伐られてしまうことが多い。
 掲句の臭木が、花を咲かせるまでの樹勢を許されているのは、ひとえに人手の及ばぬ「岩壁」だからこそであろう。開発の触手を免れた小さな浜辺の景が、五感に立ち上ってくる。
 自註に昭和53年作と記す。2度目の石油危機の年で経済の先行きに不安を抱えたとはいえ、世はまさに喧噪の只中。
 1句の描く映像によって、世相から隔絶されたかのような人々の暮しが見えてくる。専業なのか、半農なのか、ささやかな営みである。
 透徹した眼差は言葉を削ぎ切った表出となり、静かに鮮やかに詠み上げている。
 句集『襲の髭』所収。 (小川 莎良)
臭木咲く一岸壁の船溜り

淵脇護

 社団法人俳人協会 俳句文学館568号より