俳句カレンダー鑑賞  平成28年12月

俳句カレンダー鑑賞 12月
戸を閉めに立てば近くの除夜の鐘 深見けん二
戸を閉めに立てば近くの除夜の鐘

深見けん二
 掲句は平成20年大晦日の句で、句集『菫濃く』の中の一句である。
 作品に難渋なところが毫もないのが作者の特徴であるが、句意は平明で夫婦二人の年取の膳も済み、そうこうしているうちに夜も更けて来たので、雨戸を閉めようと立ったところ、不意に近々と除夜の鐘が鳴り始めたというもの。「立てば」以下の表現に、「立つ」という行為に続き、予見なしに「除夜の鐘」の音が湧いたことが示されている。
 また、「近くの」という措辞は本句の眼目であるが、作者の自宅の近くには川を挟んで寺があるものの、至近距離という訳ではない。
 除夜の静けさと澄み渡った夜気のために、加えて些かの不意のことであったために、思わぬ近さに聞こえたのである。
 夫人を呼んで過ぎ行く年を振り返り、来る年の平穏を祈って、殷々と鳴り響く鐘の音にしばらく聞き入ったことであろう。(桑本 螢生)
 社団法人俳人協会 俳句文学館548号より