俳句カレンダー鑑賞  平成28年3月

俳句カレンダー鑑賞 3月
雉走り出てひと声を畑人に 斎藤夏風

  畑人はさぞ驚いたことだろう。隣接する草地から、いきなり雉が走り出て、ひと声鳴いたのだから...。その特徴ある鋭い声が畑に響き、春の空に抜ける。
 暖かくなって耕しを始めた人と、繁殖・営巣期を迎えた雉。掲句は両者の一瞬の出会いを見事に切り取ってみせた。長閑な里山の畑が、雉の出現によって景を変える。走り出た雉のスピード感、色鮮やかな姿、鋭いその声に作業をやめて振り向く畑人。印象鮮明であり、そしてどこかユーモラスでもある。
 人と雉、それぞれの命の営みと共存の形を、包み込むように見守る作者の暖かな眼差しを感じさせられる。掲句は、作者が貫いてきた現場立ちという作句姿勢の中で授かった一句といえよう。それにしてもこの雉は、何に驚いて走り出てきたのだろう。(藺草 慶子)
雉走り出てひと声を畑人に

斎藤夏風

 社団法人俳人協会 俳句文学館539号より