俳句カレンダー鑑賞  平成27年11月

俳句カレンダー鑑賞 11月
人ごゑの去りて紅葉に冷のこる 古賀雪江

 場所は京都嵯峨野辺りの、かえで紅葉の美しい大寺が思われる。秋の句であるが、11月半ば過ぎの冬紅葉の頃かとも思われる。この時季、この辺りは人でごった返す。
 作者は少人数で、俳句を作りに来られたのだろう。あちこちと散策をして、最後に紅葉で有名な寺に寄られたのである。
 どこよりも素晴らしい紅葉である。その内に閉門時間が近づいてきて、徐々に人が去り、ひっそりとして来た。賑やかな人出や紅葉の美しさに気を取られて、今まで気づかなかった冷えを急に感じ始めたのである。人が去って、冷えが残ったのである。人が去ることを「人ごゑの去りて」と表し、「冷つのる」でなく「冷のこる」と表現されたのが眼目である。
 「去りて」と「残る」の二つの動詞で、秋の夕暮れの寂寥感がよく表されている。(上田 和生)
人ごゑの去りて紅葉に冷のこる

古賀雪江

 社団法人俳人協会 俳句文学館535号より