俳句カレンダー鑑賞  平成27年10月

俳句カレンダー鑑賞 10月
人形師けふは木賊を刈りにけり 坂内佳禰

 木賊は「砥草」とも表記される。秋に刈り取られた木賊は、細い円筒状の茎を乾燥させ天然の研磨材として用いられる。したがって、木地師や人形師などをはじめ、木工品の加工を生業とする工房や集落と結びつきの強い植物である。
 掲句では、上五の「人形師」と「木賊を刈る」という行為の間に据えた「けふは」という一語の間合が、句に深みとドラマ性をもたらしている。人形制作における工程の多様性、その一端を垣間見たときの素朴な発見と驚きが、時間と場面を限定する言葉「けふは」によって言い止められている。これにより、読者は人形師の作業が多岐にわたることや、職人の修業にかかる歳月に、あらためて思いをいたすのである。
 作者の胸には、こけし工人の佐藤丑蔵氏の風姿があったという。蔵王山麓遠刈田の新地こけし集落にて、「丑蔵こけし」を生み出した人物である。(鎌田  俊)
人形師けふは木賊を刈りにけり

坂内佳禰

 社団法人俳人協会 俳句文学館534号より