俳句カレンダー鑑賞  平成27年9月

俳句カレンダー鑑賞 9月
鰯雲見てゐてこころ連れ去られ 能村研三

 鰯雲はさば雲、うろこ雲と同様に巻積雲の別名で、白く細かい雲片がぎっしり空を埋め、鰯の群れを連想させる。その姿形は壮観で、秋の到来を感じさせられる。人は無意識のうちに日々空と対し暮している。
 掲句はふと見上げた空に広がる鰯雲の美しさにしばし見惚れ、心を洗われた情景がよく表現されている。作者24歳の作である。まだ馴れない社会生活の悩みや、屈折多き青年期の微妙な心裏をも読み取ることができる。
 鰯雲によって心の鬱積したものが消える。静と動の絡みが「こころ連れ去られ」である。晴れ晴れとした気持の変化が伝わってくる。
 物の本によると、氷晶で出来た鰯雲の波状、この白い色を「鉛{{えん}}白{{ぱく}}」と称え、日本の伝統色にもなっている。心和ます色である。(吉田 政江)
鰯雲見てゐてこころ連れ去られ

能村研三

 社団法人俳人協会 俳句文学館533号より