俳句カレンダー鑑賞  平成27年8月

俳句カレンダー鑑賞 8月
蜩や男湯にゐて女の子 小澤實

 蜩の鳴き出す夕暮れである。外はまだ明るく、客はまばらな銭湯。女の子は幾つ位か。せいぜい5、6歳位か。連れているのは父親だろう。
 男親はいつまで娘と一緒に風呂に入れるか、痛切に思うという。しかしここは内風呂ではなく、不特定多数の男たちのいる銭湯で、女の子は微妙な異分子だ。母親と女湯にいる男の子は多い。だが、その男の子とこの女の子は全く違う存在だ。
 第一次性徴の現れる前でも、女の子の肉体は男の前ではすでにエロスの匂いがするのだろうか。
 今は無邪気なこの身体も、すぐに無防備に男の前に晒せなくなるという事実に、胸を衝かれるからだろうか。
 「カナカナ」と鳴く蜩の声が切ない。何気ないほのぼのとした情景とも取れるが、すべての生き物には生きる哀しみがうっすらと纏わり付くのだ。
(望月とし江) 
蜩や男湯にゐて女の子

小澤實

 社団法人俳人協会 俳句文学館532号より