俳句カレンダー鑑賞  平成31年3月

俳句カレンダー鑑賞 3月
桃活けて壺中の闇を濃くしたり 能村研三

桃の花といえば、まず「桃の節句」を思い浮かべる。女の子の健やかな成長と幸せを願うこの行事が現代のような整った形で祝われるようになったのは、江戸時代からといわれている。旧暦の3月に咲く桃は古くから魔除けの力がある霊木と信じられていたし、桃色の愛らしさとあでやかさはいかにも女の子のお節句に相応しい花である。
 その桃を大きな壺に活ける。花が活けられたことによって壺の中の水は俄に息づき始めることだろう。人の目に触れることのない水の存在とその重要さこそを作者は、水の闇が濃くなったと表現されたのだと思いたい。
 作者には3人のお嬢様がいらっしゃる。雛の間に飾られた桃の壺を眺めながら、華やぐ花ではなく壺中の水に想いをいたすということこそが父性というものなのであろう。(栗原 公子)
桃活けて壺中の闇を濃くしたり

能村研三

 社団法人俳人協会 俳句文学館575号より