俳句カレンダー鑑賞 平成31年3月
- 俳句カレンダー鑑賞 3月
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ある春の晩、作者は家路をさして歩いていた。春満月の風情を楽しみながらゆっくりと家へ向かうと、田んぼの水面が月光に照らされ輝いている。引き込まれるように田の端に目をやると、水底にカーブを描いて続く何本もの細長い筋のような跡が見えた。蜷の道である。中でも目についた一本の道を目で追うと、田の中ほどに映る、丸く煌々と輝く月へと向かって伸びている。
掲句に詠まれているのは日本の原風景ともいえるものだ。春の水田、そこに浮かぶ月と水底に残された蜷の道。どれも農耕民族である日本人が親しんできた懐かしい情景である。
作者はそれらの対象をしっかりと捉えるばかりでなく、蜷の道を月と結びつけ、句に美しさと大きな広がりを作りだしているのである。(荒井 良子)蜷の道月に向かつてゐたりけり
佐怒賀直美
社団法人俳人協会 俳句文学館575号より