俳句カレンダー鑑賞  平成31年1月

俳句カレンダー鑑賞 1月
元旦の海おだやかに命満つ 鍵和田秞子
元旦の海おだやかに命満つ

鍵和田秞子
 第9句集『濤無限』所収。平成19年作。おだやかな元旦の海は、作者が庵主を務める鴫立庵のある大磯の海だろうか。その海辺に佇む作者の胸に去来する思いは何だったのだろう。作者は昭和7年の生まれ。戦争を体験した世代としては、自らが生かされて今日があることへの感謝の思いがあるだろう。眼前に広がる海には命が満ちている。その平和な海に死者の魂が戻って来て、魚たちと睦み合っている。そんな光景が作者には見えているのかもしれない。
 だが、海はいつもおだやかな貌を見せてくれるわけではない。平成23年の東日本大震災は、作者の心に深い傷跡を残した。『濤無限』のあとがきにも、「震災に関する報道や写真を見聞すると、太平洋戦争末期の光景が蘇る。悲惨な光景は常に重層的になって心に積もるのである」と書いている。作者の作品の大きなテーマとして「風雅の誠の継承」があるが、もう一つの軸として「平和への祈り」があるのではないだろうか。(今村 妙子)
 社団法人俳人協会 俳句文学館573号より